Google のパブリッククラウドサービスである Google Cloud 。業種や規模を問わず、様々な企業が Google Cloud を活用し、自社の業務効率化や生産性向上を実現しています。
本記事では、 Google Cloud の概要や強みに加えて、業界別の導入事例を一挙に 7 つご紹介します。 Google Cloud の導入を検討されている方は、自社で利用する際のイメージを具体化できると思いますので、ぜひ最後までご覧ください。
Google Cloud が人気を集めている 7 つの理由
昨今、様々な企業が Google Cloud を導入していますが、これほどまでに多くの支持を集める理由はどこにあるのでしょうか?本章では、 Google Cloud が人気を集めている 7 つの理由について解説します。
初期コストが発生しない
これは Google Cloud だけに限定した話ではなく、他のクラウドサービスにも共通して言えることですが、 Google Cloud は 100% クラウドで提供されているため、自社で物理サーバーなどのインフラ設備を用意する必要がありません。そのため、高額な初期コストは不要であり、月々の利用料金を支払うだけで気軽にサービスを利用できます。
保守・運用の負荷が少ない
Google Cloud に搭載されている機能は、その多くがマネージドサービスとして提供されています。つまり、保守・運用の大部分を Google が巻き取ってくれるため、自社の業務効率化や工数削減を実現できます。その結果、社員はより利益に直結する生産性の高い業務にリソースを集中でき、自社のビジネス成長に繋がります。
シンプルで使いやすいインターフェイス
Google Cloud はシンプルかつ使いやすいインターフェイスが大きな特徴であり、誰でも簡単に利用できるように設計されています。そのため、初心者でも安心してサービスを使うことができ、利用開始までのリードタイムを短縮することが可能です。複雑で難しいサービスの場合、社員に対して教育・研修を行う必要がありますが、 Google Cloud であればコストや時間をかけずにスタートできるでしょう。
セキュリティレベルが高い
Google Cloud はセキュリティ面も万全であり、
- 複数の第三者認証を取得
- 保管されているコンテンツの暗号化
- 独自のセキュリティ基準を設定・公開
- データセンターにおける物理的な多層防御
など、多くの観点からデータを保護するための工夫が施されています。ビジネスシーンにおいては、自社の貴重な情報を守ることが必要不可欠ですが、 Google Cloud であれば、常に安全な環境で Google の最先端のテクノロジーを活用することが可能になります。
ビッグデータサービスとアナリティクスサービスに強みがある
Google Cloud には、 BigQuery や Google アナリティクスなど、強力なビッグデータサービスやアナリティクスサービスが搭載されています。これらを活用することで、自社が保有する膨大なデータを効率的に管理・処理し、高速で分析作業を行うことが可能になります。企業が取り扱うデータ量が増加している現代において、この点は Google Cloud を導入する大きなメリットだと言えるでしょう。
機械学習と AI の充実したサービスがある
Google Cloud は AI の領域にも力を入れており、様々な機械学習・ AI サービスが搭載されている点も大きな特徴の一つです。例えば、マネージドな機械学習のプラットフォームである「 Vertex AI 」や、自然言語をテキストに変換してくれる「 Cloud Speech-To-Text API 」など、様々な AI 関連サービスが搭載されています。これらを上手く活用することで、業務効率化や生産性向上などを実現でき、結果として自社のビジネス成長に繋がります。
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Google のエコシステムとの連携
Google Cloud には多種多様なサービスが揃っており、それぞれをシームレスに連携させて使うことが可能です。例えば、データレイクに蓄積したデータを BigQuery で整理・分析し、 Looker Studio でわかりやすく見える化するなど、データ活用における一連のプロセスを Google Cloud の世界の中だけで完結できます。また、 Google が提供するグループウェア「 Google Workspace 」との連携も容易であり、これらの Google エコシステムをフル活用すれば、大幅な生産性向上に繋がります。
【業界別】 Google Cloud の 7 つの導入事例
昨今、様々な企業が Google Cloud を活用し、自社の業務効率化や生産性向上に繋げています。本章では、 Google Cloud の具体的な導入事例を業界別に 7 つご紹介します。
くら寿司(飲食業界)
回転寿司チェーンを展開するくら寿司では、オンプレミスサーバーの停止リスクの回避に限界を感じたため、社内システムの多くを Google Compute Engine ( GCE )へ移行し、高い可用性を実現しています。また、くら寿司の独自サービスである「スマホで注文」では、インフラとして Google Kubernetes Engine ( GKE )を活用し、スピーディーに開発を進めることで、他社に先駆けてスマホ注文の仕組みを導入することができました。
さらに、同社としては初となる不特定多数向けの Web サービス「ネットで社長のじゃんけん大会」を App Engine で実現するなど、あらゆるシーンで Google Cloud を積極的に活用しています。これにより、全国 500 店舗を対象としたシステム開発をスピード感を持って行える体制を構築し、自社のビジネス成長に繋げています。
GKE について詳しく知りたい方は以下の記事が参考になります。
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イオンリテール(小売業界)
小売業界の大手であるイオンリテールでは、顧客接点の強化を目的に「イオンお買物アプリ」をリリースしましたが、当時はアプリケーションサービスプロバイダ( ASP :インターネット経由でアプリケーションなどを提供するサービス形態)を利用してアプリを開発しており、データ基盤に関しては Google Cloud 以外のプラットフォームを使っていました。
しかし、運用を始めてから数ヶ月が経過し、会員数が爆発的に増加するにつれて、 ASP が膨大なデータに耐えられなくなったのです。それと同時に、データ分析基盤に関しても限界を感じていたため、アプリケーションの実行環境やデータ分析基盤を Google Cloud へ移行することを決断しました。
そして、同社は Google Cloud を導入し、 App Engine の環境にアプリケーションを構築することで、予期せぬアクセスの増加に耐えられるだけの安定性と低コストを実現しました。その結果、オフライン(リアル店舗)とオンライン( EC サイト)のデータを組み合わせた分析・施策を行うことが可能となっています。
さらに、従来のデータ分析基盤は 1 つの分析を行うために 30 秒以上の時間を要しており、複数の施策を分析するには多くの時間が必要でしたが、 BigQuery を活用することで、分析作業がわずか 5 秒で終わるようになり、大幅な効率化に繋がりました。これにより、様々な分析をスピーディーに実施することが可能になり、データに基づいた迅速な意思決定に繋がっています。
以下、参考までにイオンお買物アプリのシステム構成図を掲載しておきます。
※参照元: Google 公式サイト「イオンリテール:年間のべ数億人のお客さまが生み出す膨大な購買データを BigQuery によって高速に分析・活用」
横浜銀行(金融業界)
横浜銀行では、 BigQuery を活用して様々なデータを分析し、顧客ニーズを定量的に可視化・推定することで、その結果をマーケティング戦略に反映しています。また、 Cloud Composer (ワークフローを管理するためのサービス)などのマネージドサービスを使い、短期間でのデータパイプライン構築に繋げています。
その結果、個人ローンの成約率は向上し、 CPA (顧客獲得単価)を約半分に抑えることに成功しました。さらに、 Cloud Interconnect (自社のプライベートネットワークと他のネットワークを直接接続できるサービス)の活用により、オンプレミスとクラウドのセキュアな接続を実現している点も特筆すべきポイントだと言えるでしょう。
加えて、顧客の Web 上における行動データを集めるために Firebase ( Web アプリケーションを開発するためのプラットフォーム)や Google アナリティクス(データ分析サービス)を BigQuery と連携させることで、収集した膨大なデータを迅速に BigQuery へ蓄積し、分析できるようになりました。このように、あらゆるシーンで Google Cloud の各種サービスを活用し、業務の効率化や開発期間の短縮に成功した好事例となっています。
以下、参考までに横浜銀行のプラットフォームの構成図を掲載しておきます。
※参照元: Google 公式サイト「横浜銀行:次世代マーケティング プラットフォームを Google Cloud のテクノロジーをフル活用して構築、パーソナライズされた顧客体験を提供」
SUBARU (自動車業界)
自動車メーカーの SUBARU では、「 2030 年までに自社製乗用車による死亡交通事故ゼロ」という目標を掲げています。そして、同社の運転支援システム「アイサイト」の安全性をより向上させるために、 AI 開発・研究の拠点となる「 SUBARU Lab (スバルラボ)」を渋谷に開設しました。
同社は SUBARU Lab で利用する AI 開発プラットフォームについて、様々なサービスを比較検討しましたが、
- 有用なマネージドサービスが複数展開されている
- 高速な AI モデル開発・機械学習演算を実現できる
という 2 点が決め手となり、 Google Cloud の採用を決めたのです。
具体的には、アイサイトのステレオカメラで撮影した映像を解析するために Google Cloud を活用しており、車・人などの物体検出、画像に対するラベル付け、走行可能領域を認識するセマンティック・セグメンテーションなど、あらゆるシーンで Google Cloud を使った機械学習トレーニングを行っています。
また、同社はオンプレミス環境を一部残しており、ハイブリッドクラウドのような構成でオンプレミスとクラウドを使い分けていますが、環境をまたいだコード管理には Cloud Source Repositories (プライベート Git リポジトリサービス)を利用し、オンプレミス側の実行結果を基にして、自動的にコードが同期されるような仕組みを整備しています。
さらに、データ処理に Cloud Dataflow (フルマネージドで提供されているデータ処理サービス)を利用した結果、従来は 24 時間以上かかっていた作業を 30 分で完了できるようになりました。加えて、新規採用したエンジニアに向けた開発環境をすぐに構築できるようになり、人材活用の効率も大幅に改善したと言います。
以下、参考までに SUBARU のシステム構成図を掲載しておきます。
※参照元: Google 公式サイト「SUBARU:次世代「アイサイト」に向けた AI 開発をマネージドな機械学習プラットフォーム Vertex AI でスピードアップ」
スクウェア・エニックス(ゲーム業界)
ゲームソフトの開発・販売を行うスクウェア・エニックスでは、ドラゴンクエストシリーズ初となるタクティカル RPG 「ドラゴンクエストタクト」の開発に Google Kubernetes Engine ( GKE )を活用しています。 GKE を採用した理由としては、開発効率や安定性、コストパフォーマンスなどが挙げられます。
そして、ドラゴンクエストタクトのリリース初日は想定の 5 倍ものアクセスが発生しましたが、事前に負荷テストを実施していたお陰もあり、トラブルなしで乗り切ることができました。また、 GKE の大きな特徴である低レイテンシという強みを活かし、低コストでのグローバル版の展開にも成功しています。
なお、 GKE はフロントのユーザーリクエストをハンドリングする部分に使っていますが、データベースやサーバー周りは Google Compute Engine (ネットワークやマシンなどのインフラ環境をクラウド上で利用できるサービス)、 KPI の分析基盤は BigQuery を採用するなど、シーンに合わせて GKE 以外の Google Cloud サービスも積極的に活用しています。
以下、参考までにスクウェア・エニックスのシステム構成図を掲載しておきます。
※参照元: Google 公式サイト「株式会社スクウェア・エニックス / 株式会社 Aiming:国民的人気シリーズ作品『ドラゴンクエストタクト』を Google Cloud の活用で安定配信・運用に成功」
リクルートマーケティングパートナーズ(教育業界)
ブライダルや進学関連などの情報サービスを展開するリクルートマーケティングパートナーズでは、 Google Cloud の AI サービスを活用して、自社のサービス品質向上に繋げています。具体的には、 Speech-to-Text (音声情報をテキスト情報に変換できるサービス)を英語学習アプリに搭載することで、アプリケーションによる発音評価機能をスピーディーに実装したのです。
音声情報をもとにテキスト化できる AI サービスは他にも存在しますが、圧倒的な音声認識の精度が Speech-to-Text 導入の決定打になったと言います。そして、 Speech-to-Text の高い認識精度とあわせて、同音異義語(「 will 」と「 we'll 」など)に関するルールを独自に設けるなど、運用の工夫を行うことで細かい微修正や補正を施しています。
さらに、ログの収集・分析は Firebase で行っており、理解しやすい GUI を採用することで、エンジニア以外の社員でも簡単にデータ処理を行える環境を構築しました。このように、アプリケーションの機能向上やデータの民主化を Google Cloud で実現した好事例となっています。
以下、参考までにリクルートマーケティングパートナーズのシステム構成図を掲載しておきます。
※参照元: Google 公式サイト「リクルートマーケティングパートナーズ:人気学習アプリ『スタディサプリENGLISH』のスピーキング評価に Speech-to-Text を応用」
オープンハウス(不動産業界)
不動産事業を展開するオープンハウスでは、バックオフィス業務の効率化を目的に Google Cloud を導入しています。例えば、Vertex AI (旧 AI Platform )で物件資料のオビ付け(物件の概要や間取り、条件などが記載された物件資料のオビ部分を自社の連絡先情報に差し替える作業)を自動化したり、機械学習や RPA などを活用したりすることで、年間で約 4 万 2,000 時間の削減に繋がりました。
さらに、 BigQuery を中心として全社員が利用できるデータ分析基盤を構築し、自社が保有する膨大なデータを管理・分析しています。具体的には、 Google アナリティクスに蓄積されている顧客の Web アクセス履歴データを BigQuery へ転送し、広告実績や顧客の契約実績などの各種データと組み合わせることで、客観的なデータに基づいた広告キャンペーンの評価・効果測定を可能としています。
加えて、同社はグループウェアとして Google Workspace を導入しており、 Google スプレッドシートで多くの社内データベースを管理しているため、これを BigQuery と連携させて Looker Studio (旧 Google データポータル)で分析することで、シームレスなデータ活用を実現しています。また、その他にも BigQuery GIS を営業ルート確認に活用するなど、あらゆるシーンで Google Cloud を活用し、自社の生産性向上やビジネス成長に繋げています。
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事例から考える Google Cloud 活用のポイント
最後に、 Google Cloud を活用する際のポイントを 3 つご紹介します。前述した活用事例の内容も踏まえながら、どのような点を意識すべきなのかを見ていきましょう。
自社の状況にマッチしたサービスを選択する
Google Cloud には、多種多様なサービスが揃っているため、自社の状況に応じて最適なサービスを選択することが大切です。前章の事例で言えば、 SUBARU は AI 開発、オープンハウスはバックオフィス業務の効率化など、特定の課題が社内に存在しており、その課題を解決するために Vertex AI や AI Platform などの最適なソリューションを選択しています。このように、まずは自社の課題を明確化し、それを起点として自社にマッチしたサービスを選ぶことが重要なポイントになります。
BigQuery を積極的に活用する
今回ご紹介した多くの企業では、データ分析を行う際に BigQuery を活用していました。 BigQuery は超高速なデータ処理が可能なデータウェアハウスであり、膨大なビッグデータを処理するうえで非常に有効なサービスです。また、コストパフォーマンスが非常に高いため、コストを抑えながらビッグデータを扱いたい場合は、 BigQuery が心強い武器になると言えるでしょう。
以下の記事で BigQuery の使い方や BigQuery を活用したデータ基盤の構築事例をご紹介しています。関心のある方は、ぜひあわせてご覧ください。
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事前にコストシミュレーションを行う
スクウェア・エニックスが低コストでグローバル版のゲームを展開できたように、 Google Cloud の導入がコスト削減に繋がるケースは珍しくありません。しかし、 Google Cloud は従量課金制のサービスであり、使用量に応じて料金が変動するため、何も考えずに使っていると思いがけない高額請求に繋がるリスクがあります。 Google 公式サイトには料金計算ツールが用意されているため、事前にコストシミュレーションを行い、発生する費用を把握しておくとよいでしょう。
なお、料金計算ツールの使い方について解説した記事もあるので、合わせてご覧ください。
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まとめ
本記事では、 Google Cloud の概要や強みに加えて、業界別の導入事例を一挙に 7 つご紹介しました。
企業が Google Cloud を活用することで、保守・運用負荷の軽減や充実した AI サービスなど、様々なメリットを享受できます。この記事を読み返して、 Google Cloud の特徴や具体的な導入事例について理解しておきましょう。
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本記事を参考にして、 Google Cloud の導入を検討してみてはいかがでしょうか?